給与明細には、基本給や手当などさまざまな項目が記載されています。中でも重要度が高いのはやはり基本給の項目です。
企業が基本給を算定するときには、個々の従業員の年齢や勤続年数、学歴などさまざまな要素を考慮します。
そこで今回は、年齢や学歴、企業規模などの要素ごとに、基本給の平均額をご紹介していきます。
また、基本給の重要性や決まり方についても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
基本給とは給与のベースとなる固定の金額のこと
基本給とは、従業員に支払われる給与のうち、ベースとなる固定の金額のことをいいます。
支給される給与には残業手当や休日出勤手当、職務手当、インセンティブなど各種手当が含まれています。また、実際に受け取れる給与は税金や社会保険料など差し引かれる項目も数多くあるものです。
つまり、給与の総支給額から、変動する項目を除いた部分が基本給ということになります。基本給は、会社から実際に受け取れる金額とは異なるという点に注意しましょう。
基本給の平均をチェックすべき理由
給与明細を見るときや求人情報をチェックするときには、総支給額や手取り、手当やインセンティブなどに注目してしまいがちです。しかし、基本給の金額をチェックしておくことも重要です。
ここからは、基本給を重視すべき理由について解説していきます。
基本給が高いと給与額が安定しやすい
基本給が高めに設定されているほど、受け取れる給与額が安定しやすくなります。
基本給は低いものの手当やインセンティブでカバーできるという給与体系で働く方もいます。しかし、手当が見直されたりインセンティブがカットされたりした場合、受け取れる給与の額が激減してしまうリスクがあります。
しかし、基本給の減額は労働基準法違反となるため、原則として基本給が下がってしまうことはありません。給与の安定性を求めるのなら、基本給が高い会社を選ぶことが肝心です。
基本給が低いと残業代や賞与の額が下がりやすい
基本給の金額は、給与の諸手当や控除に影響を与えます。
例えば残業代(時間外手当)や休日手当は、基本給を基準にして計算するのが一般的です。
また、ボーナス(賞与)も基本給を基準に算定されます。多くの会社ではボーナスの金額を、基本給の数ヶ月分といった形で定めています。
月々の基本給が低く設定されている場合、残業代や休日手当、ボーナスの総額などが大きく下がってしまうおそれがあります。
基本給の平均は条件によって変わる
基本給の平均額は誰もが同じというわけではありません。年齢や雇用形態など、条件によってその金額は大きく変化します。
ここからは、厚生労働省の資料をもとに、基本給の平均についてチェックしていきます。
年齢別・雇用形態別にみる基本給の平均
一般的に、年齢が上がるほど基本給の金額もアップしやすくなります。年齢別にみた基本給の平均金額は以下のとおりです。
年齢 | 正社員・正職員 | 正社員・正職員以外 |
---|---|---|
~19歳 | 192,800 | 170,700 |
20~24歳 | 228,700 | 194,800 |
25~29歳 | 263,600 | 216,400 |
30~34歳 | 294,100 | 221,400 |
35~39歳 | 327,000 | 220,500 |
40~44歳 | 354,600 | 220,600 |
45~49歳 | 374,500 | 217,700 |
50~54歳 | 394,300 | 222,200 |
55~59歳 | 404,800 | 221,700 |
60~64歳 | 349,300 | 256,900 |
65~69歳 | 312,700 | 231,700 |
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 第6-1表 雇用形態、性、年齢階級別賃金、対前年増減率及び雇用形態間賃金格差」
上記の資料をグラフでみると、以下のようになります。
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 第6-1表 雇用形態、性、年齢階級別賃金、対前年増減率及び雇用形態間賃金格差」
これらのデータから、日本の多くの企業で年功序列の体制が根強いことが分かります。特に、正社員として働いた場合には定年前の50代の時期に基本給の額が大きく増加します。
またこのデータからは、正社員以外の働き方を選んだ場合には年齢は基本給に大きな影響を与えないことも読み取れます。
業態別にみる基本給の平均
厚生労働省は、産業別の基本給平均の情報も公開しています。
産業 | 平均額 |
---|---|
鉱業、採石業、砂利採取業 | 366,700円 |
建設業 | 349,400円 |
製造業 | 306,000円 |
電気・ガス・ 熱供給・水道業 | 410,200円 |
情報通信業 | 381,200円 |
運輸業、郵便業 | 294,300円 |
卸売業、小売業 | 319,600円 |
金融業、保険業 | 393,400円 |
不動産業、物品賃貸業 | 340,800円 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 396,600円 |
宿泊業、飲食サービス業 | 259,500円 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 278,700円 |
教育、学習支援業 | 377,200円 |
医療、福祉 | 298,000円 |
複合サービス業 | 302,000円 |
参考:「令和5年賃金構造基本統計調査 第5-1表 産業、年齢階級別賃金及び対前年増減率」
特に基本給が高いのは、電気・ガス・ 熱供給・水道業などインフラを支える仕事です。また、金融関連、保険関連の業種も基本給が高めに設定される傾向にあります。
一方で、サービス業の基本給は低めに設定されることが多いようです。
学歴別にみる基本給の平均
続いて、学歴による基本給平均額の差をみていきましょう。
学歴 | 平均額 |
---|---|
大学院卒 | 476,700円 |
大学卒 | 369,400円 |
高専・短大卒 | 297,400円 |
専門学校卒 | 300,200円 |
高校卒 | 281,900円 |
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 第3表 学歴、性、年齢階級別賃金及び対前年増減率」
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 第3表 学歴、性、年齢階級別賃金及び対前年増減率」
学歴が高いほど受け取れる給与の額は大きくなります。また、入社時の初任給の金額も、学歴によって変わってきます。
またグラフからは、学歴が高い人は年齢を重ねるごとに収入がアップしやすくなることもうかがえます。
ただし、基本給の金額は個々の能力によって異なります。最近では、経験や実績、専門性などを基本給の金額に反映する企業も増えてきました。
地域別にみる基本給の平均
続いては、基本給が高い都道府県5つと、低い都道府県5つをご紹介します。
順位 | 都道府県 | 平均額 |
---|---|---|
1 | 東京都 | 368,500 |
2 | 神奈川県 | 350,400 |
3 | 大阪府 | 340,000 |
4 | 栃木県 | 323,000 |
5 | 愛知県 | 321,800 |
中略 | ||
43 | 鳥取県 | 258,300 |
44 | 長崎県 | 257,300 |
45 | 山形県 | 255,800 |
46 | 宮崎県 | 254,300 |
47 | 青森県 | 249,900 |
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 第7図 都道府県別賃金(男女計)」
都市部ほど基本給の平均は高くなり、地方では平均額がかなり下がってしまうこともあります。
地域によって基本給の額に差が生まれるのには物価水準や需要バランス、産業の構造などさまざまな要因が影響しています。
企業規模別にみる基本給の平均
企業規模も基本給の平均額に大きく影響します。
企業規模 | 平均額 |
---|---|
1,000人以上 | 346,000 |
100~999人 | 311,400 |
10~99人 | 294,000 |
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査第 第4表 企業規模、性、年齢階級別賃金、対前年増減率及び企業規模間賃金格差」
従業員が1,000人以上という大企業は基本給の平均額も高めに設定されることがほとんどです。
大企業の給与が高くなりやすい大きな要因として、純粋に利益が多いことが挙げられます。また、人材確保に注力していることやブランド力を活かした戦略を展開できることなども、賃金水準アップの重要な要素といえるでしょう。
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査第 第4表 企業規模、性、年齢階級別賃金、対前年増減率及び企業規模間賃金格差」
なお、大企業の従業員であっても男性と女性では賃金の伸び率に差が生まれます。女性は妊娠や出産で第一線を離れることがあるなどライフステージの変化を受けやすい傾向にあります。
基本給は月給や固定給、手取りと何が違う?
給与には、基本給のほかに月給や固定給などさまざまな用語があります。これらの用語はときに混同されがちなので、違いを把握しておくことが大切です。
給与とは
給与とは、従業員に対し労働の対価として支払う費用の総称です。基本給や手当、賞与など、給与にはさまざまな項目の費用が含まれます。
月給とは
月給は従業員に対して支払われる1ヶ月分の給与のことで、費目には基本給のほか諸手当が含まれます。残業代などの変動項目を加えた金額は月収と呼ばれることもあります。
固定給とは
固定給とは、一定時間働いた従業員に対して一定額の賃金を支払うという給与体系です。
固定給には基本給以外に、毎月固定となる諸手当も含まれています。
手取りとは
手取りとは、給与の総支給額から税金などを差し引いた金額です。
総支給額から差し引かれる項目には、所得税や住民税などの税金、厚生年金や健康保険、介護保険などの社会保険料、雇用保険料などがあります。また、会社によっては積立金や労働組合費などが差し引かれることもあります。
手取り額は総支給額の75~85%くらいになるのが一般的です。
賃金とは
賃金は、労働の対価として従業員に支払われるあらゆる費用のことを指します。
基本給や諸手当、残業代、賞与など、企業から従業員に対して支払われるあらゆる費目が賃金に該当します。
基本給はどのように決まる?
基本給は受け取れる給与の額に大きな影響を与えますが、実際のところ基本給はどんな基準で定められるのでしょうか?
ここからは、企業が基本給を決める3つの方法をご紹介します。
仕事の内容や難易度による「仕事給型」
業務の内容や難易度、必要とされるスキル、責任の大きさや価値などに応じて基本給を設定することを仕事給型と呼びます。
仕事給型を採用した場合、同じ仕事をする人の基本給は一律で同じ金額になります。基本給の金額が個々の能力や年齢、勤続年数などに左右されないのが、仕事給型の特徴です。
仕事給型は業務の進行に求められるスキルや経験を正当に評価できるため、公平性が高まりやすくなります。欧米の多くの企業は、基本給を仕事給型で設定しています。
個々の年齢や学歴に基づく「属人給型」
個々の従業員の属性や能力に応じて基本給を設定することを属人給型と呼びます。
属人給型では、年齢や勤続年数、学歴などさまざまな要素を加味して基本給を定めます。
属人給型には、個々の能力や貢献度が給与額に反映されやすく、モチベーションが上がりやすいという良さがあります。また、従業員の定着や人材の育成につながりやすいのも属人給型の特徴です。
日本で古くから採用されてきた年功序列型の給与体系は、属人給型の一種です。
仕事給型と属人給型を組み合わせた「総合給型」
仕事給型と属人給型をうまく組み合わせた給与体系は総合給型と呼ばれます。仕事の内容と、個々の従業員の能力の両方を考慮して基本給を決めるのが、総合給型の考え方です。
総合給型には、バランスよく給与額を決めることができ公平性も担保できるなど、多くのメリットがあります。
基本給をアップさせたいなら転職がおすすめ
基本給の金額はシチュエーションによって大きく異なります。
都市部の大企業に勤めている方や学歴が高い方ほど基本給は高まりやすい傾向にあります。また、年齢が上がるほど基本給がアップしやすいのも特徴的です。
この記事でご紹介した基本給の平均と自身の基本給を比較したときに「自分の基本給は低いのでは」と感じる方もいるかもしれません。基本給の額がかなり低い場合には、年齢や経歴に見合った待遇を受けられていない可能性が考えられます。
基本給の金額が気になるのなら、転職を選択肢の1つに入れてみましょう。自身の属性や能力に見合った給与を得られる企業に転職すれば、仕事へのモチベーションもアップしやすくなるでしょう。